控除と手当

子ども手当が消え去ろうとしています。控除から手当への流れの中で、子ども手当創設、年少者の扶養控除廃止、と来ていたのですが、ここに来てハシゴを外されるように子ども手当がなくなるような気配です。その場合、児童手当は復活するでしょうが、年少者の扶養控除が廃止された事実と含めて、混乱は必至でしょうね。
さて、一人の行政に片隅で関わる人間として、「控除から手当」に変わる意味を考えてみました。
控除ってのは基本的に所得がないと意味がありません。控除=経費としてみれるもの、ということですから、収入より経費が上回ったって、「へー、そうなんだ。大変だね。」で終わりです。税金が0になれば、それ以上経費がかかったって、現状では税務署も市町村もお金はくれません(給付付き税額控除という考えが導入されたらお金をくれるようになるでしょう)。
※余談ですが、確定申告を受けていると、所得より控除が大分上回っているのに、医療費の領収書を持ってきて還付してくれという人がいますが、還付というのは税金を払っている人でなければありません。そもそも所得税を天引きされてなかったり、給与収入が65万円以下の人はもともと所得がないので、医療費の領収書の束を持ってきても何も還付することはできないのです。ああ、給付付き税額給付があれば!
所得控除の問題は、このように所得が0の人には恩恵がない、ということです。さらに、手当であれば少なくとも平等に恩恵が行き渡りますが、控除であれば税率が高所得者ほど高い故に控除の効果が高くなりむしろ低所得者ほど恩恵が少なくなるのです。(このへんの話はこちらが詳しいです)
ここまでは納税者側からの話。ところで行政からは「控除から手当」ってどんな意味があるのでしょう?まず、控除が減るということは、高所得者からの応能負担の増が望めます。基本的には行政は富の再配分をしていることが多いので、そのほうが良さそうです。で、これがバカにならないと思うのは、税金の徴収コストの問題。所得がない人(≠収入がない人)にも国保税とか保育料とか給食費とかは請求しなきゃいけないんで、ほんとに払えない人に請求し、督促し、不可能だとして欠損処理する必要があったのです。でも所得が0でも払える人はいるわけで、そこの差を明確にできると思うんですね、手当だと。
わかりにくいのでもう少し具体的に。
給与収入が141万円ある人は、65万円は給与所得者の控除で引かれ、38万円基礎控除と子ども一人の扶養控除でさらに引かれ、所得としては0なんだけど、控除で引かれる額って要は働いたり生きてくための経費として見てくれてるってわけなのね。その経費って何なのって言えば、保険料とか保育料とか給食費だったりするわけ。つまりこの人は「払える」人なんです。でも、収入0の人は払えない。ここで控除の代わりに手当が支給されれば、収入0円の人でも手当から払うことができるようになったりするわけです(控除で対応しようとしても、両者の区別ができないので納付額を変えることができない)。
払えない人にも払えって言って、払えないと督促して未納だ欠損だって処理するのは行政側の無駄だと思うんですよねー。
さらに天引きの話。
後期高齢者医療保険料の納付率が脅威の99%を叩き出しているのに対し、国民健康保険料は直近で88%まで低下した。後期のほうはほとんど年金天引きだから99%も納付できているわけ。給与所得者の健康保険だって基本的には100%近いでしょう。国保の「納付書送りますから、払ってね」なんて悠長なやり方で払ってくれるのはほとんどお人好しだ。ペナルティとしてでかいのは保険証出しませんよ、なんだけど、若者にとっては医者にかからなければ実感ないだろうしね。
というわけで、控除から手当になったときに、そこから国保税・保育料・給食費なんかが天引きできるようになるのが一番ありがたい。差し押さえができるようになるのでもいい。これらは当然払うべき義務のあるものなわけだし、徴収担当としては未納に関して本当に苦悩しているはずだからだ。
そんなわけで控除から手当ってのは、交通整理のようなものだ。より情報が整理されるのだから、反対する理由もないと思うんだけどね。市町村としても、と言いますか。控除廃止→所得額の増加 で税金も増えるはずだし、保育料、国保料なども上がるはず。さらには各種徴収率も上がる気がしてるんだよなあ。