「実家から送られてきたお米」のできるまで

都会で暮らしている農家の子女のところに、実家からお米が送られてくることもあると思います。うちは農家ではないのでそういう経験はないのですが、市役所で税務を担当している立場から、その風景を想像してみたいと思います。
まず、農家というのは収入を伴うものなので、(ほぼ)必ず確定申告をします。ウチの市役所で開設している確定申告の会場ではそういう農家の確定申告もお受けしていて、場合によっては収支内訳書*1の作成補助などもしています。(具体的には本人の持ってくる領収書の束や、手書きのメモから収支内訳書をその場で作ってしまうような感じなんですが…)
自分たちで収支内訳書の中身も見るので、市職員は多少なりとも農業からの収入と、農業にかかる経費というのを感じることができます。
で、実際の収入なんですが、まず個人で市役所で確定申告するような人(=ほとんどが年金暮らしの方)だと、市場で売っている金額より、自家で消費している金額のほうが高い。半数ぐらいは市場で売っていないぐらい。では収入はどう計算するかというと、一応地元の農協なんかと、自家消費の場合は1俵11,000円に換算すると取り決めている(あくまで自己申告)。自家消費分を収入として見るんですね。
お米なら1反(縦横が31m×31mぐらい)あたり8俵ぐらいお米が取れるらしい。で、1俵は60kgで日本人が1年間で食べる米の量が70kgぐらい?まあ1人1俵としましょう。1反あれば8人分/年の米が取れるぐらいってことですね。あと野菜は1人1年1万円でざっと見てます。
そして経費。これがすごいですよ。まあ農家の方は自分たちの生活経費と農業の経費を混ぜて考えてしまう傾向がある(まあ自家消費米を作ってるぐらいだから仕方ないかも)ので確実にはわからないですが、高齢だったり兼業だったり小規模だったりして自分ではできない作業が多いので、そういう雇人・委託費が10万円近く、苗・農薬・肥料で10万円近く、大型機械設備の減価償却に20万円超、他、軽トラの車検代とかガソリン代とかで10万円とか、まあどんどん経費はかかるもので、小規模農家でも経費が100万円なることがザラなんですね。それでも自家消費米しか作ってないとかザラ。
まあ収入としていいとこ自家消費米で20万円ぐらいとしても、赤字は40万円から100万円ぐらいは普通にある。
で、この赤字ってのが兼業なら給料と、年金なら年金と、相殺できてしまうのよね。つまり、農業の赤字分他の所得が下がるので税金安くできる、と。赤字を給料や年金で補填して、税金を相殺して、自家消費米を作っている。言うなれば、税金で兼業農家や年金農家を補助して自家消費米を作ってもらっているのと同じこと。
「「田んぼを荒らしちゃいけない」という責任感だけで農家をやってる」という方は多い。そう、実際に田が荒れると経費がかかるのだ。ご近所から苦情を言われるので頻繁に草刈をする必要があるし(かなりお金かかるよ)、固定資産税だってかかる。それだけではなく、今まで農業で見ていた経費が農業をやめればどこにも計上できなくなるのだ。軽トラ*2や農業機械設備、まだ償却が済んでいなくても経費として計上できなくなる。農業をやっていなければ、年何十万円の赤字を相殺できなくなくなるのです。
農家はやめられない。特に米は田んぼという設備も手入れの経費がかかるし、機械設備も経費がかかる。やめたからといって(見えない)経費がなくなるわけではない。地方では年金生活者の農業はほぼどん詰まりになっていて(限界に近い高齢化)、農地集約などの打開策がますます必要になる。
まあそれは余談として、このようにして市場に出せない(多分価格競争力がない)米はどんどんできてしまうわけです。そしてそれが都会の子女に仕送りされるという風景になるのだろうなあと非農家の私などは思うのです。*3
ちなみに米のことばかり書いたけど、畑の場合はもう少し身軽なんで、年金農家の方も生き甲斐やボケ防止でやられている方が多いという印象。野菜は少額でも利益が出ているウチは多い。しかし、米は撤退できない。退却戦は(既に)厳しいものとなっているだろうね。

*1:収入と支出の内訳から所得を計算する様式

*2:田舎では必需品!かつ最強の乗り物

*3:実家も6反ぐらい田んぼ持ってたと思ったけど、ウチは全然農家じゃない。設備投資してなくて良かった。