戸籍クイズ

最近、戸籍を必要とする人に対して自分の必要なものを理解してもらおうとするときの、「筆頭者」についての認識の違いがありすぎて、疲れたりする。これは戸籍を担当する職員に共通の悩みだったりするのではないだろうか。
一般の人々は戸籍に対してどういうイメージを持っていて、または、戸籍という制度はどうあるべきだと思っているのだろうか。
それでは少し○×形式のクイズで問題をあぶり出そう。それぞれの問題に○か×かで答えてください。
1.戸籍にはその人の住所が書かれている。
2.戸籍謄本は本籍地でないと取れないけど、戸籍抄本はどこでも取れる。
3.引っ越したから本籍が変わった。
4.筆頭者(夫)がなくなったので、かわりにその妻が筆頭者になった。
5.結婚したので筆頭者が夫の父親になった。
6.相続で使うためには、亡くなった方の除籍謄本が必要であり、それだけで済む。




どうでしょうか。答えはすべて×です。日本人は全員戸籍がありますから、ほとんどの方は答えがわかったのではないでしょうか。と、言いつつ、誤解を招きやすいところを抜き出してきているので、実際には不正解が多い方もいらっしゃるとは思います。
戸籍という制度はややこしいので、基本的にはそういう感覚を持っているかどうか、いわゆる経験の世界です。それぞれの問題について解説してみます。

1.戸籍にはその人の住所が書かれている。
戸籍には住所が書かれてはいません。本籍は住所のような形態をとっていますが、住所とは全然違うもので、合言葉か主キーか棚番号のようなものだと思ってください。とにかく住所に類することは、全く書かれていません。戸籍は身分関係(結婚とか親子関係とか)の公証だけに使います。

2.戸籍謄本は本籍地でないと取れないけど、戸籍抄本はどこでも取れる。
こういう都市伝説がある、ということが市民課んジョークとして流行っています。そもそも謄本とは「全ての写し」の意味であり、抄本とは「省略した写し」のことである。戸籍自体が紙で管理されていたときに、全部を写すか一部を写すかを言ったものであり、原本が同じである以上、謄本も抄本も同じところでしか取れない、ということになります。戸籍をコンピュータ化したものは戸籍謄本を「全部事項証明」、戸籍抄本を「一部事項証明」と言いますが、この言葉は全然普及しませんね。

3.引っ越したから本籍が変わった。
1にも書いたように、戸籍には住所は書かれません。本籍というものはあくまで記号的な意味を持つのみです。本籍が変わるのは婚姻などの創設的な身分行為があったときと、転籍をした場合に限られます。転籍というのは行政の一般的なサービスには含まれない(玄人好み)ので、窓口などで「本籍を変えたいんだけど」と相談してもらうことから始まることが多いでしょう。とにかく、あえてするのが転籍です。

4.筆頭者(夫)がなくなったので、かわりにその妻が筆頭者になった。
筆頭者というのは「戸籍に最初に書かれている者」のことですが、本籍と同じように記号的な意味しか持ちません。合言葉か主キーか棚番号のようなものです。主キーで例えるとわかりやすいですが、主キーと違って筆頭者も本籍も一意(重複があるから)ではありませんので、筆頭者と本籍という二つのものを使って、目的の戸籍を特定するために使うのです。戸籍の経線と緯線、縦軸と横軸です。そんなわけで、技術的な言葉ですから、筆頭者も自動的には変わりません。本籍は自分で変えることができますが、筆頭者は変えることすらできません。

5.結婚したので筆頭者が夫の父親になった。
戸籍には3代戸籍の禁止、というものがあります。例えば子が未婚で子を産んだとしても、祖父母、子、孫が同じ戸籍に入ることができないので、子と孫は新しく戸籍を作ることになります。これも技術的な内容でしょう。また、夫婦が夫婦を養子にする場合も、同じ戸籍には入れないので(夫婦には子があるという前提かな。3代ではないんだけど)、戸籍の変動としては養子夫婦の氏が変わるだけです。さて、前置きはこのぐらいにして、3代戸籍の禁止というものは、夫婦と夫婦が同じ戸籍に入れないということを意味します。さらに、婚姻というものは夫婦が改めて戸籍を作るということです。筆頭者は必ず結婚当事者の氏が変わらなかった方になります。

6.相続で使うためには、亡くなった方の除籍謄本が必要であり、それだけで済む。
戸籍にはその戸籍が作られたときから、その戸籍が除籍になるときまでしか記載されない。まずその戸籍の終りである除籍についてだが、除籍とは戸籍に入っている全ての人が抜けてしまうことであり、転籍で他の市町村に本籍を移すことも含まれる。戸籍の終りは除籍以外にも、制度の変更などによっても起きる。そうすると作りかえ後が新しい戸籍になり、作りかえ前が改正原戸籍になる。改正原戸籍も戸籍の終りである。
相続で戸籍を使う、というのは法定相続人の特定のためである。言い換えると、その人にはどれだけの子がいたのか、というのを特定するためである。戸籍には戸籍が作られてから終わるまでの期間しか記載されないため、法改正や婚姻、転籍などで新しい戸籍ができるたびに、そういった内容については新しい戸籍に載ってこないようになるのだ。つまり、どれだけの子がいたのかを調べるためには、出生のときまで遡って、最後死亡に至るまでの連続した、繋がった戸籍を取る必要があるのだ。

戸籍というものがどういうものかご理解いただけましたでしょうか。皆さんの戸籍観とどれだけ違うか、または一緒か。そして戸籍制度はどうあるべきか、どのように考えましたでしょうか。それではまた。