離婚→子の氏の変更許可→入籍

離婚→子の入籍 の説明書きのようなものを作ったりしていた。作っていて気付いたが、どうしたって難しくなるのは、制度が難しいからであろう。
そういえばインターネットで上記を調べているときに、初めて「インターネットは玉石混交」の意味がわかった。「教えてなんとか」みたいなサービスがいっぱいあると思うんだけど、それに書かれている内容が極めて怪しい。戸籍の世界のことは割と正確な情報を持っている人が少ない世界で、一般人の経験者や、もう少しましな戸籍事務をかじった人などの回答でも怪しいところが多いのだ。突き詰めていくと法律の世界なので、はっきり言うと市役所の現担当以外はなかなか難しい世界である。しかし、インターネット上に玉石は混交していたけれども、それはそれとして全く意識せずに参考にしている自分もいるなあ、と。改めて玉石混交だなんて言って何が面白いのかしら、私。
そういう意味でもインターネット上に戸籍の仙人みたいな人がいれば面白い。余談のついでに、戸籍は法律だけでは回答がでてこない。戸籍法というのがあって、それを適用するための戸籍法規則がある。さらにその実際の運用のようなところで法務局から通達が発される。この通達が重要なんだけれども、インターネットで検索しても人気の通達しか出てこなかったりする。今年は1000号通達が多分人気。
さて、話を1行目に戻します。離婚→子の入籍についての説明。まず、結婚というのは夫婦二人で新しく戸籍を作ることである。技術的な要因から、戸籍には筆頭者というものが設定される。それが婚姻後の夫婦の氏で、「夫の氏」か「妻の氏」の選択したほうの人になる。筆頭者というのは要は名字が変わってない人のことね。その夫婦が離婚するとどうなるか。民法767条では、「婚姻によって氏を改めた夫又は妻は、協議上の離婚によって婚姻前の氏に復する。」とある。つまり、筆頭者ではない、婚姻で氏を改めた人は、結婚前の氏に戻るのである。この場合、父母の戸籍に戻るってことなのだが、新しく一人で戸籍を作ることもできる。スピンアウトだ。
さて、子供がいた場合。そして日本では95%の人が夫の氏を選択するわけで、我々市職員としてはその非常に多いケースに対応するために考えます。ここはあえて夫の氏を選択したと仮定します。子供がいると、その親権や氏が問題になります。親権のほうは戸籍法によって離婚届に書かれますので氏なんですが、子供の氏は親権とは無関係です。氏は戸籍法に則って動きます。ただ離婚しただけでは、夫とその子は同じ氏で、妻だけが離婚で氏が戻るということになります。そしてこれもまた多いケースという話ですが、実際には子の親権は母が持つケースが多いわけです。ここで特有の事例が発生します。母から見て、「子供を自分と同じ氏にしたい。または自分の戸籍に入れたい。」という事例です。
これが簡単なように見えて少し難しい。結婚よりも難しい。または協議離婚より難しい。裁判所が絡むのです。
日本では氏の変更をするのは難しい。婚姻や離婚、養子縁組などのように身分に変動がある時はいいのですが、今回のように子の身分に何も変更がないのに氏の変更をするには、家庭裁判所の許可がいるのです。それが民法791条「子が父又は母と氏を異にする場合には、子は、家庭裁判所の許可を得て、戸籍法の定めるところにより届け出ることによって、その父又は母の氏を称することができる。」です。確かにこういう制限がなければ、父母のどちらの氏でもいつでも選び放題ってんじゃ名前を変えまくる輩も発生するのでしょうが、ちょっと重い法律です。
離婚した時に、母は子を自分の戸籍に入れたいと考える例が多いのに、家庭裁判所の許可が必要だったり、その後で市に入籍届をする必要もあるのです。そんなわけで、離婚後子供が親権者の氏を名乗るって法律だったら済んだようなことで、当事者も家庭裁判所も市役所も苦労しているというお話。なかなかうまく説明するのが難しい。
ところでこの「入籍届」という名前。どこかでよく聞くこともあろうかと思います。婚姻届のことを広義の入籍届と呼ぶこともできるので、入籍届と呼ぶことも間違いではないのですが、この入籍届というのもまたメジャーな戸籍の届になります。そんなわけなんで、戸籍の担当としてはできれば婚姻届と入籍届は世間的にもわけてもらいたいなあと思ったりもします。
しかしまあ戸籍の世間に浸透していない具合と言ったら…。一般の人が考えている戸籍と、実際の戸籍は180度ぐらい違う可能性があると思ってしまったりもします。筆頭者は(実家の)世帯主ではないし、本籍は(実家の)住所ではない、ということを理解してもらえれば、かなりの戸籍通だと言えるでしょう。