疾走する永遠の素人集団

市役所の話である。
我ら市職員は、大抵4月に採用される。そしてどこかの職場に配属される。私も全ての職場を回っているわけではないが、配属先では健康保険を扱ったり、市の財政を扱ったり、戦略を練ったり、道路や市営住宅を管理したり、病院や図書館の事務をしたり、災害の対応や対策をしたり、税金の賦課や徴収をしたりと様々だ。基本的に一般職員として採用されれば、区別なくこうした職場を回る。回っているうちに色がついてくることはあるが、それでも突飛な異動は起こりうる。
俗に「10年3課」と言われたりするが、異動はだいたい3年周期、特に新規で採用された職員は、10年の間に3課は経験させておくのが通例とされている。
さて、上記新人君、もちろん一年目は素人。他にも初めてその課に来た職員と一緒に、その課に2・3年いる職員から仕事のイロハを教わります。余談ですが、4月の市役所は、マジの素人が1/3近くいるので、用事を済ませに行くにはあまりいい時期とは言えない。そんなこんなで新人の彼も半年で立派な半可通になり、窓口や電話でベラベラ喋れるようになる。しかし裏付けがないのでちょっと突っ込まれるとタジタジする。
2年目の彼はもう教える立場だ。年上の先輩等にも、この職場に来たからには業務を覚えてもらわなければならない。うちの市では50歳ぐらいまでは係長にもなれないし、係長と言ってもプレイング係長なので、まあ30歳上の人にまで仕事を教えることは普通にあるな。ここの匙加減、難しいとこだけど、この2年目は教えることにより自分も学ぶ、3年目に向けての大事なステップだ。目上の扱いも通常このあたりで覚える。
3年目の彼はもうこの職場では古株もいいところだ。彼はその仕事の集大成として成果を残して飛び立たなければならない。仕事も理解したし、彼にうるさく物言えるほどその仕事に習熟した人はいない。業界の慣習でおかしなことがあれば、おかしいとして仕事を改善する、そして夜は早く帰る、というのが彼の、3年目の職員の目指すところだ。神様のようになって、「その仕事なら〇〇君ね」などと言われ頼られ、成果もあげたところで、彼の4年目は異動から始まります。以下、1年目の話に戻る。
このように我々はほとんど3年間の間に素人と玄人(3年で玄人なわけがないので3年でマスターするような仕事の束があるんだ、と考えて下さい)の間を行き来する。
ある分野に精通した玄人が、全く何も知らない分野に3年で移る。この新鮮な風の吹きこみ具合。ある分野での最新知識は持ち込まれるわ、素人目線で業務の穴を見つけたり、ハイブリッドな考えに至ったり。
市役所と民間はあまり比べられないけれども、もし市役所が3年単位の異動がない組織だったら…今の市役所より酷いでしょうね。ある分野に習熟し、習熟するがあまり違う考えを入れることができなかったり変化に適応できなかったり。習熟したシステムが入れ替わることにも抵抗を覚えるでしょうから、今のようなシステムの入れ替えはできなかったでしょうね。あとは出入り業者と不必要に仲良くなりすぎてたでしょうね。
市役所には極端に言えばその仕事を3年やった人しかいない。これはもうほとんど素人集団と言っていいよね。この素人集団がある意味では意思を持って、市としての方向性をもってその方向に全体で進んでいる。ある時はタイヤだった人がある時はエンジンになり、ある時はCPUになり、ある時は口になり、アメーバのように場所を変えながら進んでいく。実は市役所という素人集団の外側に、民間企業という玄人集団がいる。日本を代表する大手電機メーカーのようなところとか、測量や設計や施工の専門家さん、こういうプロから成果を適正に買いながら、進んでいる。
もはやただのアメーバか口寄せだと思うけど、これが意外とちゃんと仕事になっているという気もしてるんだよなあ。