あいまいな日本の私

課税をする、という大海原の波に揉まれています。その中で見えている断片についての話。
課税する時に、税額を決めるのも大事ですが、誰に課税するかというのもまた大事なことです。その時に、一体誰が誰なんだというのが難しいお話で。
個人や法人が、ある人に給料を払ったら、市町村に対して給与の報告を提出する。最近これが電子的にもできるようにはなったけど、多分まだ紙でのものが多い。その報告を住民票の個人と紐付けていくんだけど、これがまた難しい。市町村が持っている住民票データと、送られてきた住所氏名生年月日の情報を結びつけるんだけど、書かれている住所氏名生年月日が本当に正確であるかはわからない。
住所などはもうアテにもならない。1月に退職後、会社が12月末の住所*1を知っているはずもなく、退職当時の情報で報告は送られる。氏名もまたアテにならない。僕は行政にとって夫婦別姓のほうが効率的だとすら思うんだけど、結婚して氏が変わると個人情報の繋がりがほとんど切れるぐらいに別人になる。今挙げた個人情報のうち、住所と氏名がゴッソリ変わる人が多いから。結婚退職の人なんか住所も氏名も違う。そうなると頼みの綱は生年月日だ。生年月日は生まれた時に決まる本人にとっての唯一無二のコードで、生涯変わらない、行政が頼り切っているほとんど唯一に近い命綱だ。これが間違ってたらほとんどアウトだ。
ところが生年月日は一意ではない。同じ生年月日の人が何人もいる。それに実際上、間違えられることも多い。あなたに給料を払っている人が、記念日にプレゼントをくれる人であれば間違えないだろうに、あなたに給料を払っている人は、あなたの生年月日を1日、いや1月、いや1年、いや10年間違えている場合もあるのだ!あまつさえ年号を書き間違えることも!
そうやって住民票に辿り着かない給与報告がたくさん発生するのですが、それを私たちがわかる範囲で結びつけていく。そもそも紙で届いた報告を、データ入力業者に外部委託してデータ化してもらって、それを住民票データとぶつけているんだけど、こういうのは危ういことだと思う。
日本の個人情報というのは本当に曖昧だ。住所というものは異動が多い上に、表記がブレる(「番地の」、「番地」、「番」、「−」とか「号」、「号室」とか)。氏名にはまた別の致命的な問題がある。実は行政は個人の氏名の正確な読み方を知らない。出生届の時に「よみかた」というのは書いてもらうのだが、実はあれ公式な登録ではないのよね。戸籍に読み方は登録されないので、住民票登録の参考のための欄なのだけど、住民票にとっても読み方は必須の登録情報ではないので、管理はしていても、正確ではない。実際に正確ではない場合も多いし、公式なものではないので、本人の申し出で簡単に変えることができるのだ。しかし、もう一つの問題として、公式な登録であるほうの漢字登録も、漢字がたくさんあり過ぎて、実際上は氏名が必ず正式な表記だとは言えないのだ。戸籍においては「誤字」というものすら存在しており、それが本人の意思で直されるまでは、誤字のほうが正しいとなっており、もちろん一般的なパソコンで変換できるわけがない。誤字でなくても俗字というものは認められているので、将来的にパソコンで変換できる漢字だけになる可能性は低い。名前に関してだけは、人名用漢字が制限されるようになったので、ある時点からはパソコンで変換できる感じだが、団塊から上はもうヤバい。キラキラネームのほうがマシである。個人的な読めない名前ナンバーワンは変体仮名で、おばあちゃんの名前には苦しめられた。
まあそのように行政は個人の氏名の正確な読み方を知らないので、パスポートの表記のゆらぎにも繋がるよね。ノバの社長が「さるはし」ではなく「さはし」だと住民票の表記を変えたとか変えないとかって話があったが、普通に可能だし、「さはし」ではなく「やまだ」だと言っても拒むすべはない。
私が私であるってことは、こんなに曖昧なんです。
※余談として、斉藤容疑者は住民税も課税されていたのかもなあ、と思った。住民票の有無は課税の条件ではないので、偽名の人が実際に住んでいたら、課税はできるような気がする。

*1:住民税は1/1に住所がある市町村が、その前年の所得を元に課税する