朝、職場へチャリンコで向かう途中に、人が道端に立って田んぼのほう(そしてその向こうは山)を見ていた。近付いてみるとその人は、父親と同級生で近所に住んでいる、父曰くの「ヒキコモリ」さん(無職)であった。
こういう時は複雑な感情になる。父から聞いた話では、彼は「俺、NTTに就職するかもしらん」とか「スズキの社長がウチに来てそういうことを言ってった」とかそういうことを言っていたらしい。
50も半ばを過ぎて年老いた母と二人暮らし。周りからは「とうとう来たか」と思われる。
でも何十年もそういう暮らしをしていて、それぐらいなら、むしろそれほどおかしくはないのかもしれない。普段どんな生活をしているのか、とても窺い知ることはできないけれど。
そんな彼が、どんな気持ちで田んぼを眺めていたのだろうか。もしかすると、それは僕が見る景色の何倍も美しいのかもしれないし、全然そんなこともないのかもしれない。もっと実用的なことかもしれないし、何かの儀式や宗教なのかもしれない。スズキの社長と会っているのかも知れない。
色々考える。その姿は僕だったのかもしれないし、いや、将来の僕なのかもしれない。逆に僕はそうはなれないのかもしれない。
もし彼が、宇宙の神秘のような美しい景色を、平凡な田園風景の中に見ているとしたら。そう考えたら僕は何が正しいのかわからなくなる。