サラダボウル化した日本   Welcome or Reject (光文社ペーパーバックス)

サラダボウル化した日本 Welcome or Reject (光文社ペーパーバックス)

いろいろ思ったことはあるが、それはさておき私の立場から市役所について語った部分を反駁していこう。第10章の「こちら市役所の外国人相談課・日系人たちの"トラブル"の日々」に対して。東海地方のある市、ということで対象を匿名にしているが、私も東海地方のある市で働いているわけなので、本文中の材料(東海地方、外国人集住都市、豊富な湧き水、ジュースの紙パックやトイレットペーパー*1ヤマハのオートバイやその部品の生産、外国人登録数が5000名ほど)から特定してみようとしたけれども特定できなかった。特定できない時点でおかしいんだけど。
実は僕の働いている市も、本文中の材料にある程度合致する。東海地方、外国人集住都市、ヤマハのオートバイやその部品の生産、外国人登録数が5000名等。残念ながら全くうちの市ではないんだけど。特に本文中の内容は全くと言っていいほど違う。
さて、うちの市も人口の5%が外国人で、うち70〜80%がブラジル人なのでこの章の対象になりうる。そんなわけでそこまで一致点のある2市の相違点を挙げていこう。本文では10年前から通訳を雇ったと書いてあるが、わが市では通訳を雇っていない。近隣市では1名〜2名を雇っているのが通例のようで、基本的には日系人自身であることが多い。その点本文中での地元出身でスペイン語を勉強した通訳というのは珍しい。かなり特殊だろう。ちなみにうちの市では国際交流協会の人に通訳をしてもらっているらしい。らしいというのは僕のいる支所には通訳がいないからだ。通訳がいない範囲に2500人ぐらい住んでいるが、ある程度通訳なしでも手続きは済んでいる。

ちなみにスペイン語の通訳ということだけれども、日本ではスペイン語母語の外国人は圧倒的に少ない。確かにポルトガル語スペイン語は近いんだろうけれども、それだとポルトガル語の通訳を雇えばいい話になる。スペイン語の通訳を雇えているところはどこなのだろうと気になる。
ちなみにうちの市では外国人相談課というのはないし、特に外国人の相談を受けるということもない。もっというと市民の方の相談を受ける窓口すらないのだけれども、それが常設されているというのは余裕がある市なのだろうか。外国人窓口に近いのは外国人登録の窓口だけれども、ちょっと趣旨が違う。ともかく外国人専門の窓口としてはそこで、専任としては3人、兼任で3人(各支所に散らばっている)といったところ。
本文でメインに取り上げられているのはコロンビア人の事例である。しかしコロンビア人はうちの市では5人内外しかいない。5000人中、である。3000人以上いるブラジル人とは比較にならない。さらにコロンビアは治安の悪い国でもあるらしい。国民性とその人個人が関係あるわけでもないが。
こちらは小さな話だけれども、本文中に警備員を呼ぶ場面がありますが、市役所に警備員がいるところは多いのでしょうか。うちの市役所にはいません。うちの市で規模が小さいというのなら、外国人5000人でそんなに規模が大きい市なら、外国人集住と呼べないと思うのに。
そんなわけで改めて読み込んでみて、一つ「この市じゃねーかなー」という候補が見つかった。そこだとしたら外国人集住都市としてはちょっと違うんじゃないかと思うんだけど。東海地方だったら磐田市豊橋市豊田市なんかがオススメなんだけどねー。
そういうわけで、この本の姿勢にちょっと疑問がある。僕が体験していることこそまさに外国人集住の事例でもあると思うんだけど、ちょっと違うなあ、と。人口の5%の外国人に対しては、市役所の1%の人員で対応できる。やたらと物語チックに煽るのはおかしいと思うのだ。すでに外国人集住は普通の状態であり、特別の混乱はない。何故か通訳なしでも話が済んでしまう。外国人の大半は日常会話が堪能だ。それか外国語のフォローが可能なところで働いている。
ドラマチックな考え方は個人的に嫌いなのだ。大抵のことはもっとドライだ、と僕は思っている。ある個人の選択に賭けや物語があるというよりは、その個人の合理的な選択が、ある意味ではドラマッチックにも捉えることができる状況を生むのだろう。生むのだろうけど、どうでもいい。それは普通のことだと思う。

*1:富士市じゃないかと思っちゃうね