トヨタの労働現場―ダイナミズムとコンテクスト

トヨタの労働現場―ダイナミズムとコンテクスト

以前読んだトヨタモデルに対応して。図書館より。
いわゆる参与観察の本。実際に著者が実際に3ヶ月の期間工としてラインに入った経験をもとに書かれている。
トヨタ生産方式とは一般に、生産性を向上させる仕組として知られる。例えばカンバン方式、視える可、改善、自働化、等々。これらが経営側からの「生産性を向上させる」という一言で片付けられるものなのかどうか。
トヨタ生産方式は生産性の向上とともに、労働者を監視する権力の発露でもある。
カンバン方式と、視える化について面白いことが書かれていた。もともとカンバン方式は世間で言うような生産管理の方法ではなくて、監視に近いものだった。カンバンとは確かに内部に向けてのものではなく、外部に向けてのものである。それは工場を監視する人に向けて目で生産状況をわかりやすくし、労働者に言い訳をさせないようにするためのものだった。
視える化というのも生産過程が労働者に取って視えるようにするためのものではなく、労働者が経営者から視えるようにするためのものだった。例えばガラス張りの工場、のような。
トヨタではよくいわれる自律性の問題がある。労働者が自ら「改善」をすることで、職場をコントロールできる。これに対する本書の内容としては、労働者は「改善」以外に職場を変えることはできないし*1、改善にしても全ての労働者が積極的に関与しているとも言えない。QCサークルも全般に低調だ。コントロールも制限されるし、それが職場に対するプラスの感情から出ているものだけではない。
あと、話題としては熟練に関しては懐疑的ってことか。
図書館に返す本なのでどうしてもメモ的になってしまうが、非常に面白かったので、機会や興味がある方は読んでみると良いのではないでしょうか。

*1:勝手に機械を触ることも許されない